2015年12月14日

妖刀武蔵定規の伝説

妖刀武蔵定規の伝説

「妖刀」と呼ばれた一振りの刀がある。
通称「武蔵定規(むさしさだのり)」。
武蔵の国に住んでいた定規(さだのり)という名の刀工が作刀した、とのみ伝わるが、定規銘の刀はこれ一振りしか現存しておらず、その詳細は定かではない。

武蔵定規

この刀が「妖刀」と呼ばれたわけ。それは、この刀に魅入られ、剣客として数多くの人をあやめたというひとりの男による。人呼んで「人斬り松刀斎」。

人斬り松刀斎という男

人斬り松刀斎
人斬り松刀斎(ひときりまっとうさい)。生没年、出自ともに不詳。
明治時代初期に剣客として暗躍し、要人の暗殺などを請け負ったという。
標的だけではなく、その場にいた無関係の一般人でさえ容赦なく切り捨てたことから、「人斬り」と呼ばれるようになったという。この男の振るった刀がこの「武蔵定規」であった。
一説には、この「武蔵定規」を手に入れてから人斬り稼業を始めたとされ、「刀に魂を喰われた」ともいわれており、この男の手を離れてからも「武蔵定規」は妖刀として忌み嫌われることとなった。

妖刀「武蔵定規」

武蔵定規
目盛りが浮き出たかのような刃文をもつ刀身。刀身の長さは100cm。
拵えは「文具尽拵(ぶんぐづくしこしらえ)」。製作年代、製作者とも不詳だが、文房具の数々をあしらった拵えだ。

鐔
鐔(つば)には三角定規、分度器をかたどったと思われる穴と、ホチキスの芯を並べたかのような文様。

柄
柄(つか)には画鋲を並べたような目釘。
※柄:手に持つ部分。

小柄
小柄(こづか)にはクリップのような装飾。
※小柄:鞘(さや)に付属する小刀。
赤い下げ緒は後の時代につけられたものだと考えられる。

武蔵定規
刀 銘 定規 附 文具尽拵
個人所蔵

「また、つまらぬ物を作ってしまった」イベント用の作品です

この「妖刀 武蔵定規」は、2015年11月27日にお台場カルチャーカルチャーで開催されたイベント「また、つまらぬ物を作ってしまった Vol.2」のために作成したものだ。

またつまイベント

このイベントは、かつてNOTTV(スマートフォン向け放送)で放送されていた、片桐仁さん・乙幡啓子さんによる工作番組「また、つまらぬ物を作ってしまった」のリアル版ともいえるイベントの2回目。
片桐さん・乙幡さんによる作品トークや作品発表に加え、イベント観覧者による持ち込み作品の発表コーナーもあり、前回は「オレオ神獣鏡」を持ち込ませていただいた。

イベントのおよそ1ヶ月前に、今回の募集作品テーマは「文房具」という発表があり、せっかくなので何か文房具というテーマで作っていこう、と考えたのが今回の「武蔵定規」。

元々、刀に興味があり、刀の拵(こしらえ:刀身以外の付属品一式)を作ってみたいと思っていたのだが、何に刀の拵を施すか、というところで迷っていた。
そこへ「文房具」というテーマが決まったことから、定規に刀の拵を施してみよう、と思いついたのだ。定規を訓読みにしたら「さだのり」で、刀の名前っぽいし。

時間がない

このイベントのためにもうひと作品作っていた(ダイオウ印鑑&メンダ判子)ため、イベントまで、製作にかけられる期間はおよそ10日間。
果たして間に合うだろうか、と心配になりながら製作開始。

製作過程

とにかく時間に追われていた上、100cmもあるステンレスの定規の取り回しがやっかいで、ろくに製作工程の写真を撮っていない。
定規だから刃がついているわけではないが、先端はそこそこ鋭利で、天井や床をこすってしまい「敷金……!!」とひやっとすること多数。

柄巻前

柄巻(柄に巻いてある布。今回は紙製)は何度かやり直したものの、刀本体は比較的すんなりと仕上がった。
しかし鞘を作るのがとにかく大変だった。当初プラダン(プラスチック製の段ボール)で作れば強度と軽さが両立できるだろう、と思っていたが、楕円形がうまく作れずやり直し。

鞘制作中

結局、四角く作った鞘を芯にして、周りに楕円形に切ったスチレンボードを貼り、その間を紙粘土で覆い、更に上から厚紙で巻くことで楕円形の鞘にできた。3代目の鞘である。
どうにか鞘の形ができた時点でイベント前日の深夜。

そこから少し仮眠を取って塗装を開始。最後にラッカースプレーをかけて仕上がったのがイベント当日17:00。
19:00から開始のイベントなので、18:00には家を出たい。1時間前だ。
まだラッカーの匂いがするでかい刀(全長110cmくらいある)を担いでお台場に向かったのだった。そのままだと色々まずい気がしたので、模造紙に包んで。

定規、大ウケでした

「また、つまらぬ物を作ってしまった」イベント当日は、片桐仁さんの誕生日。
寿司で作られたケーキが出てきて、参加者みんなでお祝いを。
ちょうどこの日、NOTTVがサービス終了というニュースが流れていて話題に。
元々NOTTVの番組だったのだから、帰る場所がなくなったような状態だ。これにめげずにリアルのイベントとしてこれからも続けて欲しい。

作品の発表受付は先着順だったので、文房具部門で一番最後。トリである。
定規をナイフにしてきた方がいて、若干被った、と思いつつ、壇上にて発表。
片桐仁さんとゲストのたいがー・りーさんに大ウケ。やっぱり武器は男の子ウケがいいようだ。
2作品作っていったためか、乙幡啓子さんはちょっと呆れていたような気がする。「松本さん、仕事してるんですよね…?」と言われた。貴族とかじゃないです。

なお、会場では戻せなくなると困るのでやらなかったが、拵えと刀(というか定規)本体はある程度分解できるように作ってある。

分解

文房具部門のあと、自由部門で盛り上がっていたのはなんといってもガードレール型自転車。
東京都のイチョウのマークが入った緑のガードレールにそっくりの自転車だ。
前回のこのイベントで、アイデアとして出していたものを実際に作って来たというのだからすごい。でかいのでわざわざ車で持ってきたというから更にすごい。

ちなみにこのガードレール自転車の作者のよねもとさんは、片桐仁さんの個展でのコンテストで入賞していたり、雑貨大賞で一次通過していたりと何かと顔を合わせる人だ。

その他にも沢山の面白い「つまらぬ物」の発表があり、大いに刺激を受けた。
最後に全ての作品の中から3作品に賞の贈呈。なんと「武蔵定規」、受賞させていただきました!
賞品は「またつま」オリジナルの升。普通の升と同じように檜で作られており、いい匂いがする。周りの4面に「つまらぬ」とひと文字ずつ彫られていて、作りも細かい。これはいいものを貰ってしまった。

またつま升

大盛り上がりで、前回と同じく押し気味で終了。
正式に発表にはなっていないが、「またつま」イベント、次回もあるとの噂。
もちろん作品を作って参加したい。

部屋で撮ってます

「拙者、ただの流浪人でござるよ」
撮影は自室で、ひとりで行なっています。