2016年05月29日
立ち上がれ! 多脚焼酎戦車乙型
「多脚焼酎戦車乙型(たきゃくしょうちゅうせんしゃおつがた)」は、2016年5月21日(土)にお台場の東京カルチャーカルチャーで開催された、妄想工作家 乙幡啓子さんとラーメンズ 片桐仁さんによる工作イベント「また、つまらぬ物を作ってしまったアワード」に出品するために作成した。焼酎サーバーを、主に100円ショップのものを使用して多脚戦車に改造した作品である。
ネット用語では、魔改造と呼ぶのだろうか。
多脚焼酎戦車乙型
多脚焼酎戦車乙型
ICK-30-O車高:21m
重量(武装含む):46t
材質:Eセラミックス,強化樹脂,鋼鉄 他
最大焼酎積載量:9t190mm長距離砲×1
3連装対空レーザー砲×2
2連装パイルバンカー×1
防弾シールド×1
6連装ミサイルポッド×2
2連装対人レーザー銃×4
バーニアスラスター×1焼酎解放戦線は、焼酎運搬時における交戦に対応するため、焼酎タンクに戦闘用の改修を加え、機動兵器としての運用を可能にした。荒れ地や山岳地帯での移動用に6本の脚を備え、2本のマニピュレーターと1門の長距離砲を基本の装備とする。一撃離脱の戦法を想定し機動性を重視した乙型と、防御性と突撃性とを重視した甲型が製作された。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
本体のベースは貝印の焼酎サーバー。アマゾンで購入した。
改造を加える都合上、なるべくシンプルな、黒一色のものを選択。
本体である焼酎タンクは特殊なセラミックス製で、現代の技術では製造できない。また堅固な物質のため加工も難しい。遠距離からの砲撃で破壊することはほぼ不可能であるため、焼酎戦車同士の近接戦闘も想定した設計がなされた。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
脚は、上に乗る焼酎サーバーに焼酎が最大1リットル入ることを考え、ある程度の重量に耐えるようにステー(穴の空いた金属板)を組み合わせて骨組みとし、100円ショップのT字カミソリの柄をベースにストローでパイプ類、ハンズで買った樹脂のコイルみたいな素材でバネを表現。
装甲は100円ショップで買ったマス目入りの工作用紙。タイヤはこちらも100円ショップの木製ビーズ。装甲板は3mm厚ほどの柔らかい樹脂のシートの上に工作用紙で作ったフレームを貼り付け。
6本分作るのに1週間くらいを費やした。
主な動力は焼酎エンジンで、最高36時間の連続稼働が可能。6本の脚での歩行、脚の先端に装着された車輪を使用しての最高40km/hでの走行のほか、脚力とバーニアスラスターを併用しての最大15m程度の跳躍も可能。なおバーニアスラスターの役割はあくまで跳躍・着地時の補助と姿勢制御のためで、飛行は不可能である。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
焼酎サーバー本体が乗る部分はプラスチックのコップ。脚はネジ止めして固定。
本体の装甲は3mm厚ほどの柔らかい樹脂のシートを貼り付けた。正面の窓は100円ショップで買ったゴム製の靴の踵の補修パーツ。
後ろ側になる脚の1本の裏側から蓋の上にある戦闘室のハッチまで、パイロットが登るという設定でハシゴで導線を確保。
ハシゴはさすがに細かくて作れなかったので、模型用のパーツを購入して使用。
6本の脚は3本まで破壊されても自走可能な設計となっている。2本あるマニピュレーターは、あくまで瓦礫の除去等の作業用で、ものを挟んで持ち上げる程度の動作しかできず、精密な作業は想定されていない。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
腕の関節には模型用の関節パーツを仕込んでいるため、ある程度動かせる。脚との干渉で、ポーズ変更というほどのことはできないけれども。
腕は脚と同じくT字カミソリの柄にストローでパイプ類を表現。工作用紙の装甲で覆った。マニピュレーター(手先)は洗濯バサミの先を切って作成。
肩の装甲はケチャップなどを入れる容器。肩前面の丸い装甲はプラスチックのスプーンの先を切ったもの。
装甲が厚く重量がある甲型に比べ、機動性を重視した乙型はその分安定性に欠け、操縦の難易度が高く、パイロットへの負荷が大きい。そのため、主に上級士官やエースパイロットに配備された。
コンピューター制御により操縦者1人でも戦闘行為が可能だが、通常は砲撃手と運転手の2名以上で運用される。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
後ろのバーニアスラスターはタレビン2種を接続。本体との接続パイプはストローの折りまげ部分の蛇腹で表現。
焼酎解放戦争の集結まで実戦で運用され、戦況に多大なる影響を与えた。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
なお、「焼酎戦記イーチコ」はおれの頭のなかにしか存在しない架空の物語だ。
惑星イーチコで唯一の資源である焼酎を奪い合う戦争の話だが、書くと長くなるし誰も読みたくないだろうから割愛。
190mm長距離砲
焼酎戦車のメイン武装。レーダーとの併用で理論上8km先への射撃が可能。1発ごとに装填を必要とするため連射はできない。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
大砲は、スチレンの棒とパイプを組み合わせて作成。戦闘室のハッチはアイス用のプラスチックのスプーンにホチキスの芯で取っ手をつけた。
工作用紙の弾丸よけ、ポリカーボネート棒のアンテナ、針金の手すりなどでそれらしく。
ハッチ周辺のテクスチャは100円ショップで買った自転車カバー。
焼酎サーバーとして使用できるようにするという都合上、大砲その他のパーツは蓋にかぶせる形で取り外せるように作成した。
腕も本体から取り外せるようにしてある。
3連装対空レーザー砲
肩に装備された対空兵器。射程距離は30mと短く、威力もさほどではないが主にミサイルや弾丸の迎撃に用いられた。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
肩についている武器は、脚と腕に使ったT字カミソリの余った頭部分に、粘土とポリカーボネートの棒で銃身をつけた。
余った素材を利用できないかと思ったのだ。
2連装パイルバンカー
電磁誘導式のパイルバンカー。近接戦闘や障害物を破壊するために使用。焼酎戦車同士の戦いにおいて、本体タンク部分に有効なダメージを与えられるのはこの種の武器のみであった。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
パイルバンカーはSF作品でよくある武器。工事現場で見る、振動でアスファルトを砕く機械をでかくしたようなものだ。
ストロー、コイル、針金で作成。刃先(?)はネジ釘。
防弾シールド
強化樹脂と鋼材で作られたシールド。裏にパイルバンカーを装備している。弾丸や爆発等からの防御のほか、パイルバンカー自体を保護する目的もあった。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
盾は、脚の装甲板と同じく樹脂のシートに工作用紙のフレームを貼り付けて作成。
ヤスリで傷をつけてそれらしく。
6連装ミサイルポッド
赤外線追尾式の小型ミサイルを発射するミサイルポッド。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
盾とパイルバンカーを作ることは早い段階で決まっていたが、逆の手用の武器に悩んでのミサイルポッド。
工作用紙で枠を作り、粘土を詰めたストローでミサイル射出孔を表現。腕にはパイプで固定した。
2連装対人レーザー銃
機体下部に装備された対人兵器。弱点である脚部内側、胴体エンジンルーム周辺への敵兵の接近を防ぐ。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
脚と脚の間が寂しかったのでここにも武器を。7mmの穴あけパンチで作成した丸い工作用紙に粘土を盛った。銃身はアルミ針金。
焼酎バルブ
焼酎タンクとして使用されていた頃の名残り。積載している焼酎を放出する。戦闘の際には使用しない。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
真鍮製の蛇口部分は、そのままだと光沢がありすぎたので酢や醤油をかけてしばらく放置し、わざと腐食させて曇らせてある。
インターネットで得た知識だ。
前面下部にライトをつけ、LEDでスイッチを入れると光るようにした。
電池ボックスの接続をいつも間違える。今回も危うくショートさせるところだった。ちょっと焦げ臭くなっただけで気づいてよかった。
電子工作は無理なんだろうな。
仕上げとして、金属の腐食を表現するため、モデリングペーストを筆ではたいて部分的に凹凸をつけたり、メモ用紙を小さく切って貼り付けたり、樹脂のペーストでリベットを描いたりした。
関節部分をシルバーのスプレーで塗装後、全体をブラックのスプレーで下塗りし、その上からオリーブ色のスプレーで塗装。
茶色のアクリル絵の具で錆を、黒で汚れを施した。
「乙」のマークと機体コード「ICK-30-O」はプリントアウトしたものを切り抜いてスプレー塗料でステンシル。「乙」は焼酎乙類の意味。「ICK」はいいちこ。「30」はいいちこの製造元三和酒造をイメージ。「O」は乙型の意味。
今回、いいちこがスポンサーのイベントなので、思いっきり寄せにいっている。
焼酎サーバーとして使用できるように、マスキングして塗料が内部に入らないようにしたうえ、完成後にアルコールで内部を消毒し、食器用洗剤で洗浄した。
高射砲塔
高射砲塔
TMB-10焼酎採掘場や軍事拠点の防衛用として開発された砲塔。2門の120mm長距離砲を備える。360度の回頭が可能で、最大射角40度。射程距離は最大4km。2基で運用されることが多い。
―「焼酎戦記イーチコ」兵器資料より
100円ショップで購入した、白いプラスチックのコップの柄を切断したものがベース。
焼酎サーバー本体の他に焼酎タンブラーも作ることにしたのだが、ちょうどよいコップがなかなか見つからず、隣駅の100円ショップでやっと見つけた。
砲身はストロー。コップの底に表示されていた注意事項(耐熱温度など)は遠慮なくヤスリで削り取らせていただき、自転車カバーのテクスチャを貼り付けて、工作用紙でハッチ等を作成。
土台はコルクのコースターの周りに厚紙で壁を作った。
グレーで塗装して汚しを入れた。
機体コード「TMB-10」の「TMB」はタンブラーの意味。「10」は適当。
本体ほどの手間はかかっていないが、想像以上にそれらしく出来たので満足している。
ひっくり返してコップとして使うため、下(口が当たるところ)と内側は未塗装。もちろんアルコールと洗剤で洗浄してある。
「多脚焼酎戦車乙型」と「高射砲塔」のセットで、焼酎サーバーと焼酎タンブラーとして使えるようにしたかったのだ。
展示台も作成した。スチレンボードの土台に粘土で大まかな凹凸を作ったあと、モデリングペースト、ジェッソ、ジオラマ用の石、との粉などで表面を作り、アクリル絵の具で塗装した。
文明が滅びたあとの世界の砂漠をイメージしている。
「また、つまらぬ物を作ってしまった」イベント
今回で3回目の、片桐仁さんと乙幡啓子さんによる「また、つまらぬ物を作ってしまった」イベント。
出演者、参加者がそれぞれの「つまらぬ物」を作って発表するという、不思議なイベントだ。
今までの2回とも参加し、作品を発表させていただいている(1回目は「オレオ神獣鏡」、2回目は「妖刀武蔵定規」)。
今回は焼酎ブランド「いいちこ」がスポンサーとなり、「お酒を楽しく飲むためのグッズ」というテーマでの作品募集だった。
当日のオープニングトークより。片桐仁さんの作品「カレイPhone」。iPhoneに粘土を盛った作品。TVドラマ「99.9」中でも普通に使っている。
「お酒を楽しく飲むためのグッズ」。お酒のグッズはいろいろあるが、せっかくだから焼酎関連がいいだろう。
焼酎関連の用品をいろいろ調べていて、焼酎サーバーについて画像を検索していた時、焼酎サーバーの画像がふとあるものに見えた。
「タチコマ」である。
タチコマとは、士郎正宗の漫画が原作のアニメ「攻殻機動隊」に登場する多脚戦車。丸い胴体に6本の脚。どことなく焼酎サーバーに似ている気がする。気がするのならもっと似せよう。
SFは元々好きなのだが、SFの世界観でも、いかにも空想というものより、現実の延長線上にありそうな世界観のほうが好みだ。
多脚戦車はまさにそんな、現実の延長にありそうなSF世界に登場する存在。二足歩行ロボットよりずっと現実っぽさが強いのだ。
軍もののプラモデル(戦車や戦闘機など)を本物そっくりに作りこむというジャンルがあり、それをやってみたかった、というのもある。
他にもゲーム「メタルマックス」シリーズの世界観が好きだとか、ちょうど少し前にザリガニワークスさんの展示で見た蚊取り器をミリタリー風にした作品がカッコ良かったこととか、色々な要素が合わさって生まれたのが「多脚焼酎戦車乙型」だ。
参考にするために、戦車のプラモデルを購入。
箱を開けてみて、パーツの数の多さにそっと閉じた。
駄目だ細かすぎる。老後にとっておこう。そういえばプラモデルをまともに作ったことがない気がする。ガンプラ(ガンダムのプラモデル)も作ったことがないまま大人になった。作るのがめんどくさいからだ。
プラモデルでも作ってみようかな、と思って買ったはいいが作っていないプラモデルがいくつかある。
結局、参考にしたのはパッケージの絵だけであった。今回も積みプラモになった。
テーマ発表がイベント開催日の1ヶ月ほど前。それから作るものを考え、大まかなデザインを決め、材料や塗料を集めて製作して、となんだかんだで完成したのが当日朝。毎回ぎりぎりである。
トートバッグに雑に突っ込み、運搬中に壊れないかとヒヤヒヤしながらもお台場の東京カルチャーカルチャーへ。
会場で発表の順番を決めるくじ引きをしたら、なんと1番。
緊張しながらも座席で待つ。なにせ今回は、賞を取れれば賞金も出るらしい。
イベントが始まると、スポンサーであるいいちこさんからいいちこのソーダ割りのサービスが。香りが良くて飲みやすい。
乾杯の後、片桐仁さん、乙幡啓子さん、準レギュラーのたいがー・りーさんそれぞれの「つまらぬもの」作品発表。
乙幡さんはコップにセッティングできるししおどし。
クオリティが高くて歓声が上がる。本番で動かなくて「家では動いたのに!」と焦っていたが。
片桐さんは、いつでも花見の気分になれるように桜が生えた帽子と、置いたものを持ち上げるとセンサーが反応し、声で褒めてくれるコースター。
片桐さんの実の息子さんたちによる「お父さん面白い」と「お父さんかっこいい」という声が流れて微笑ましい。
たいがー・りーさんは音声を使ったシリーズ。というか今回は音声そのもの。部活のジョギングの掛け声やキャッチボールの音を利用したガジェットを想定して紹介していた。
休憩のあと、いよいよ参加者による作品発表。
壇上では緊張して何を喋ったのかよく覚えていないが、実際に焼酎サーバーとして使用してみせた(中にミネラルウォーターを入れておいた)。片桐さんがパイルバンカーに対して食いついてくれたのが嬉しかった。パイルバンカーにはロマンがある。
他の参加者の方の作品もそれぞれ個性的で、手の込んでいるものから、まだ完成していないものまで、それぞれの「つまらぬ物」が見られて、刺激になった。プリミティブな創作衝動が「つまらぬ物」を生むのだろう。中には衝動が先走りすぎて、狂気を感じるものさえあった。
賞こそいただけなかったものの、自分の作品の出来には満足しているし、イベント終了後乙幡さんにもほめていただけたので、初めてのジャンルに挑戦してみてよかった。
このイベント、また開催されるとの噂なので、その際にはまた、つまらぬ物を作っていくつもりだ。