2015年08月17日
桃太郎、行きまーす! 水ヘボコン参戦記録
技術力の低い人限定ロボットコンテスト、通称「ヘボコン」。技術力を競う通常のロボットコンテストとは逆に、技術力が低いことを参加条件としたロボットコンテストである。
デイリーポータルZ主催のこのイベント、2014年に第一回が開催されて以来、人気が高まり、日本国内ばかりではなく世界中で開催されるブームが起こった。
第一回からずっと参加したいと思っていたのだが、競争率が高く、また日程が合わず、参加できずにいた。
2015年8月1日・2日に開催されたものづくりのイベント、Maker Faire Tokyoでも、この「ヘボコン」が開催されるという発表があった。今回は今までの「ヘボコン」に加え、水上ロボットバトル「水ヘボコン」も開催されるらしい。
何、水上ロボットバトルとな。こちとら徳之島の海でたい焼きを泳がせた実績がある。負けるはずはねえってんだ。迷わず「水ヘボコン」に申し込んだ。
そして厳正なる抽選の結果(一説にはExcelのRAND関数のおぼしめしだとか)、当選。技術力の低い人限定ロボットコンテスト水上版「水ヘボコン」参加の切符を得たのである。
水上ロボット「桃太郎」のひみつ
「水ヘボコン」に出場した、おれの水上ロボット「桃太郎」。
勝利のために実装された、その素晴らしい機能について解説しよう。
桃太郎
ガンダムでいえばアムロ・レイ、エヴァンゲリオンでいえば碇シンジ。
この機のパイロット、桃太郎である。
腕を突き上げたカッコいいポーズで荷台を支え、もう一方の手にはきびだんごの袋が。
盆型荷台
今回の「水ヘボコン」のルール上、必須である荷台。
黄金の桃マークが勝利を約束する。
本体
川を流れるのに最適な、桃の形をした本体。
浮力と適度な重さを併せ持つ。
日本一の垂直尾翼
桃太郎のトレードマークである、日本一ののぼりの形状をかたどった垂直尾翼。空気の流れを調整し、直進のための安定性をもたらす。
安定フロート「子桃」
本体の四方に展開することで浮力を調整し、安定性をもたらす子機。
葉状安定鰭
水中モーターを設置するための機構から生やした、葉っぱの形状の安定鰭。
水面下で水流をコントロールし、機に直進性を与える。
高速水中モーター
動力を担う、赤いボディが特徴のタミヤ製水中モーター。通常の3倍の早さというわけではないが、高速タイプ。
段ボール型展示台
水上での戦いに特化した本機は陸上では自立しないため、安定させるためにこの台を使用する。桃が入っている段ボールをイメージしたが、そういえば桃太郎ってトマトの銘柄だ。
ご理解いただけただろうか。ご覧のとおり、負ける要素がひとつもない。
無敵とも思われるこの機体で、「水ヘボコン」に挑む。
桃太郎、行きまーす!
8月1日、いよいよ「水ヘボコン」当日。
MakerFaireの会場は東京ビッグサイト。
「水ヘボコン」の会場は屋外。競技会場のプール自体はテントの中ではあるものの、容赦のない炎天下である。
屋内のヘボコンブースで受付と調整を行い、本番前にプールでテスト。
完全にまっすぐとはいかないが、きちんと前に進むことを確認できた。
いける。あっさり勝ってしまってひんしゅくを買うかもしれない。ヘボコンの趣旨から外れてしまうかもしれないが、その時はその時だ。主催であり司会進行役のヘボコンマスター、デイリーポータルZ編集部の石川さんには申し訳ないけれども。
いよいよ本番。会場のプールの周りにはギャラリーもたくさん集まり、取材も来ている。開催前から期待度がものすごい。くらくらするほどの熱気である。ただ暑いからかもしれないが。
バトルの種目はコイン運び。事前にくじで決めた順番によるトーナメント制だ。
我が桃太郎の初戦の相手は「チームめがね」さん。
風船を動力とし、ネズミのラジコンが舵を取るという斬新な機構を持つ機体。そしてチームでの参戦。家族が応援に来ていた。
おれはひとりでの参戦。味方なし! 負けてたまるか。
で、結果だけど
桃太郎、およそ4秒でコインを落っことした。
まさかの初戦敗退…!!
桃太郎が腕を突き上げてその上に荷台がありその上にコインを載せる、という仕様では、重心が高くなりすぎたのだ。
コインを落っことしたまま進む桃太郎。
実は、コインを載せた状態では試運転を一切やっていなかった。本番で使用するコインの形状は500円玉程度らしいと聞いていたが、その時500円玉持ってなかったし。なんとなく大丈夫だと思っていたのだが、コインが想像より重かった。
優勝は、「OG技研」さん。竹でできた本体に水中モーターを設置し、そうめんをまき散らしながら進むというどうかしている機体だが、スピード、直進性とも圧倒的であった。
そして審査員賞の発表。
審査員はヘボくないマジの水中ロボコンも主催しているNPO、日本水中ロボネットの増田殊大さん。水中ロボットの専門家である。
左が増田さん、右が石川さん。
そんな増田さんの選んだ審査員賞は、おれの「桃太郎」。
専門家から見て「一切勝てる要素がない」とのこと。そもそも丸い機体が不安定であること、重心が高いこと、フロートの効果がほとんどないことなど。おかしいな、勝てる要素しかなかったつもりが。
でも嬉しい。まさか審査員賞をもらえるなんて一切想像していなかった。優勝する想像はしていたけど。
賞品として潜水艦「しんかい6500」のプラモデルを頂き、増田さんに「しんかい6500」についての面白エピソードをいくつか聞かせていただいた。
例えば、酸素の消費を抑えなければならないので、乗組員は目的の深さに到達するまでひたすらじっとしている、とか、当然トイレはないので、乗組員はおむつをして搭乗するが、バイタルサインをモニターされているので漏らすとばれる、とか、耐圧殻を作る際の溶接作業は、中断するとその部分がもろくなるため、8時間くらいぶっ通しでやったとか(おれの記憶なので正確ではない可能性あり)。
しんかい6500といえば、おれが小学生のころに完成して話題になった覚えがある。まだ現役というのに驚く。
タミヤブースで6,000円ぶんくらい大人買いして帰り、ひとり祝杯をあげた。
増田さん、石川さん、ありがとうございました!
水上ロボット製作記録
今回「水ヘボコン」に参戦するにあたり、ぱっと頭に浮かんだのが桃太郎だ。
競技種目は、コイン運び。
川を流れて来て、財宝を持ち帰った桃太郎なら、この役割にぴったりである。
よし、桃太郎を作ろう。水上ロボットのモチーフが決まった。
桃は生の果物にするのはどうだろう。
浮かぶし、ある程度の重さもある。そうだ、生の桃の上に桃太郎を載せた機体にしよう。荷台をつけるルールなので、桃太郎が荷台を持ち上げているデザインがいいだろう。
桃太郎を作る
針金で骨組みを作り、粘土で肉付けをしていく。
粘土はハーティソフト。紙粘土に近い質感の、軽量の樹脂粘土である。
桃に刺して固定できるよう、弁当などに使うピックを桃太郎の尻に固定した。
荷台はスチレンボードを切り抜いて粘土を貼り、針金で桃太郎の手に固定。
衣装はインターネットを参考に。きびだんごの袋を持たせ、刀を差し、陣羽織を着せる。色を塗ったらかなりポップな桃太郎になった。
桃に固定
水中モーターを固定するためのパーツを作る。桃の下半分を覆うように十字にプラスチック製のアームを作り、それぞれの先端に穴を開けて、そこにピックを刺すことで桃に固定する仕組みとした。
桃太郎の必須アイテム、日本一ののぼりも作成。プリントアウトした紙を竹串に固定し、防水ニスで防水加工した。
桃に固定してみる。そこそこちゃんと固定されている。
水に浮かべてみると、一切自立しない。
桃単独では想定より重く、沈んでしまうため、桃が傷つかないようについてくる保護用ネットを使用したのだが、バランスが悪すぎるようだ。
そして固定するために穴を開けるので、桃がどんどん傷んでいく。本番で別のものを使うとしても、その都度バランスを調整しなければならないのか。
これは、ダメだ。
桃は美味しくいただきました。
方針変更
本番まであと数日。
生の桃はあきらめ、桃の模型を作ることにした。
100円ショップで買ってきたカラーボールを切り開き、中に重りと粘土を詰める。下のほうを重くして、安定性を確保しようという作戦だ。
ボールの上の方には不要になった保護用ネットを詰めて、粘土で覆う。
水中モーターを固定するためのパーツも埋め込み、調整用のヒートン(ねじ込み式のフック)も埋め込んで形を作り、塗装。
安定性を確保するため、発泡スチロールの球を埋め込んだ小さい桃の形のフロートも作成した。
桃太郎、完成
あと3日というところでようやく機体が完成。
いざ水上でテストしてみると、どうにか自立した。
前進するだろうか。水中モーターのスイッチを入れてみる。が、進まない。
水中モーターが動いていない。電池を入れ替えてみても、一度分解してみてもダメ。
なんと3日前になって水中モーターが壊れた。
慌ててアマゾンで注文。せっかくなので今までの通常タイプではなく、高速タイプに。
翌日、無事に届いた。現代社会すごいぞ。
まだ少しバランスが悪いものの、当日の調整でいけるだろう。
そうだ、自立しないので展示台も作ろう。
スチレンボードにプリントアウトしたものを貼り、展示台も完成。
あとは当日を待つばかりだ。
設計ミス
根本的な作りがそもそも間違っていたことはさておき、実は設計ミスがあった。
まず桃太郎のポーズ。造形の過程で荷台が傾きすぎてしまい、桃太郎がやたらと斜めに座ることになってしまった。へっぴり腰みたいだ。
また刀のさやが後ろに飛び出しすぎてしまい、桃太郎のお尻がきちんと桃に接地しない。
これらを解消するため、座布団を作り、桃太郎の尻の下に敷くことにしたのだが、粘土の残りが少なかったため、ちっちゃい座布団に座る桃太郎になった。
また当日は屋外だったため、安定を確保するはずののぼりが風に煽られるという予定外の事態もあった。
テストと1回の戦いだけで本体と水中モーター設置パーツの間に亀裂が入り、断裂しかかったという事態も。
だがそんなことは瑣末な問題だった。
肝心のコイン運びが出来なかったのだから。
ヘボコンの趣旨から外れる、なんて思っていたが、とんでもない。
ヘボいのはおれだった!
ヘボコン最高
賞を貰ったのはもちろん嬉しかったが、初めて参加したヘボコンは、ロボットの製作工程も含め、とても楽しかった。
動くものを作るのは難しい。ちっとも思い通りにならないけど、それがまた楽しい。
ヘボくても楽しければいい。そんな最高のイベントが「水ヘボコン」だった。