2014年06月29日
かつお仏師になりたい
落語や講談に登場する、左甚五郎(ひだりじんごろう)という伝説上の彫刻職人がいる。
その甚五郎が登場する落語のマクラ(本編に入る前の話)としてよく使われる小ばなしに、以下のようなものがある。
甚五郎が、ねずみをモチーフに、他の職人と彫り比べをすることになった。
他の職人たちは一斉に仕事にかかるが、甚五郎はのらりくらりしている。
〆切ぎりぎりになって甚五郎が掘りあげたのは、荒削りなねずみだった。
ねずみの良し悪しを決めるなら、猫にさせるのがよいだろうと、職人たちが作ったそれぞれのねずみを並べて猫を放つと、猫は一目散に甚五郎のねずみを持ち去った。
皆が褒め称えたが、実は甚五郎、かつお節でねずみを彫っていた・・・という話だ。
(話す人によって多少違いがあります)
かつお節ってそんな風に彫れるものなのだろうか。試してみたい。
さっそくかつお節を購入。
Amazonにはなんでもある。1,500円ほどだった。
長さは25センチくらい。
確かに、見た目や触感はほぼ木のようだ。叩いても硬い音。匂いはかつお節だが。
iPhoneと並べるとこれくらいの大きさ。
さて、なにを彫ろう、と考えながらかつお節と向き合う。
この細長い形、湾曲した背・・・そうだ、仏像だ。仏像を彫ろう。
近頃なんだか落ち着かないのは私の精神が未熟なせいだ。
仏像を彫って精神修行をしよう。
かつお節に仏像を彫る仏師(ぶつし)、かつお仏師になりたい。
彫るのは、仏像の中でも菩薩、観音菩薩の像にした。
観音菩薩はブッダが悟りを開くための修行中の姿を表しており、様々な姿に变化して衆生を救ってくれるらしい(にわか知識なので間違っていたらすみません)。
私も救われたい。救って下さい。
まずは下絵。
ネットや書籍を参考に、菩薩像を正面からと横から描く。
彫りやすいよう、極力シンプルな菩薩像にした。
(が、彫っていくうちにこれでも細かすぎて色々諦めた)
下絵が描けたら、いよいよかつお節を彫っていく。
かつお節は、削る前に表面のカビなどを落とす必要がある。
手で直接触れると痛みが早いそうなので、軍手をして扱う。
表面を磨いたら、下絵を参考に、かつお節に輪郭をざっくり掘る。
木だったら直接描くことができるが、食品なのでそうはいかない。
本来、仏師はノミなどを使うのだろうが、難しそうなので彫刻刀を使用することにした。もちろん彫刻刀も一度洗浄してある。
輪郭が彫れたら、あとはひたすら、下絵を見ながら彫っていく。
来る日も来る日も、かつお節を彫る。
かつお節の中に菩薩の姿が現れるまで・・・
掘り続けていると、次第に愛着が湧いてくるものだ。
部屋はかつお節臭くなるけど。
だんだんと菩薩が姿を現してきた。
かつお節は、場所によって癖があり、柔らかく彫りやすいところと、硬くて彫りにくいところ、彫ると表面がざらついてしまうところ、油が多くて彫りにくいところなどがある。
仕上げに、乾燥から防ぎ、表面のざらつきを抑えるため、油(オリーブオイル)で磨いてみた。
なんだか赤黒くなってしまったが、古い木彫の像のような風格がでたような気がする。
これがかつお仏、かつお観音菩薩の御姿である。
初めて彫ったことと、かつお節というくせのある素材だったことで、拙い彫り上がりではあるが、かえって味わい深い表情になったように思う。かつお節だけにね。
せっかくなので、本物の観音像と一緒に撮影してみた。
光源寺(文京区向丘2-38-22)にある駒込大観音(約6m)とかつお観音(約20cm)。
もちろん、彫った時に出た削り屑は、出汁をとって味噌汁を作り、ありがたくいただきました。
かつおの風味が豊かで美味しく、おまけに徳もあがりそうである。
何せただのかつお節ではない。仏像を彫って生じたものだから。
彫って修行、食べて修行。
かつお仏師としての道は、まだまだ始まったばかりである。